送り籏

 いまはほとんど見かけませんが、昔はよく道ばたに「送り籏」というのが、立てられていました。

 「送り籏」というのは、ある神社にお願いごとがある時とか、またお願いしたいことが、かなっ

たときにこの籏をつくりました。

 ほんとうなら、その神社におまいりして、ねがいごとやお礼を申し上げたいが、都合が悪くて行

けないために作った「送り籏」を、道ばたにたてて、道を通る人の手で、目的
の神社にとどけても

らおうとするものです。

 むかしはいまのように交通の便もなかったし、この山深い遠山谷から一歩そとに出ることは、実

にたいへんなことでした。

ましてや、遠い伊勢の大社とか、四国のコンピラさまなどに、おまいりに行ける人は、ほんのひと

にぎりの地主さんとか、山持ちのお金のある人たちだけでした。

 さて、この「送り籏」をかついで、次の場所へうつす主役は、子どもたちでした。

でも、子どもたちは、お籏がかかれている神社が、どっちの方向にあるかわかりません。

 ただ、親たちから、「送り籏をみたら送ってやるもんだ」と言われているので、そのようにして

いたわけです。

だからおかしなこともありました。

きのうは南の方へ籏を送ったのに、、翌日はまた
別の子の手で送り返されてくることが、しばしば

ありました。

 この籏がはたして願いをかけた神社に、つつがなくとどいたどうかはわかりませんが、いずれに

しても「送り籏」には、多くの人たちのいろいろの願いごとがこめられていたのです。


 虫よけの神さま